日仏、戦略資源で連携強化:中国依存からの脱却を目指すレアアース強靭化計画の全貌

日仏、戦略資源で連携強化:中国依存からの脱却を目指すレアアース強靭化計画の全貌

日仏、戦略資源で連携強化:中国依存からの脱却を目指すレアアース強靭化計画の全貌

2026年4月、フランスのマクロン大統領訪日という舞台で、日仏両政府は経済安全保障における新たな歴史的一歩を踏み出しました。高市早苗首相との首脳会談に先立ち、赤澤亮正経済産業大臣とフランスのロラン・レスキュール経済財政副大臣は「日仏重要鉱物サプライチェーン協力ロードマップ」に署名。

これは単なる外交儀礼ではありません。電気自動車(EV)や先端半導体、風力発電機に不可欠でありながら、その**サプライチェーンを中国に大きく依存しているレアアース(希土類)**という「戦略的鉱物の武器化」への対応策です。世界のレアアース分離・精製の9割近くを中国が握る現状を打破するため、両国は「同志国」として本格的な協働に乗り出します。

このロードマップに呼応するように、フランス政府は2026年5月5日、「レアアース・永久磁石に関する国家強靭化計画(Plan national de résilience)」を発表しました。本稿では、これらのプロジェクトを支える「カネ」の流れと主要プレイヤーを深掘りします。

フランス南西部ラックに誕生する「Caremag」:プロジェクトの中核

今回の日仏連携の具体的かつ最大のシンボルが、フランス南西部ラック(Lacq)に建設中のレアアース分離・精製・リサイクル工場「Caremag(ケアマグ)」です。旧ガス田で知られるこの地で、約1年前から建設が進められており、2026年末までの稼働開始を予定しています。

Caremagは、単なる製錬所ではありません。使用済みEVモーターや工場の製造端材から出る永久磁石のリサイクルと、鉱山からの精鉱処理の両方を行う、欧州でも極めて先進的な施設です。2030年までにフランス国内需要の100%をカバーすることを目標としており、欧州全体で見ても、重レアアース酸化物で域内需要の約10%、軽レアアースで約25%を満たすことをフランス政府は見込んでいます。

資金調達の仕組み:官民挙げた「国家プロジェクト」

Caremagをはじめとするレアアース強靭化計画の資金調達は、**フランス政府の大型投資プログラム「France 2030」**を中核とし、日本からの公的・民間投資、そして税制優遇措置を組み合わせた多層構造になっています。

  • 公的資金(France 2030): フランス政府は、国家主導の産業投資計画「France 2030」を通じて、Caremagに**1億600万ユーロ(約170億円)**を投じています。さらに、「重要金属」に関する公募枠を延長し、今後約10件の追加プロジェクトへの支援も予定しています。
  • ファンド(InfraVia): フランス政府の支援を受ける投資ファンド「InfraVia」も、すでにオーストラリアのCore Lithium社やCarester社への出資を実行しています。
  • 日本からの投資(JOGMEC・岩谷産業): 日本の公的機関であるJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)と、産業ガス大手の岩谷産業が共同でCaremagに出資することを決定しています。JOGMECは日本の資源安定供給を担う中核機関であり、その参画はこのプロジェクトの「国策」としての性格を色濃く示しています。
  • 税制優遇(C3IV): 税制面では、グリーン産業投資に対する税額控除制度(C3IV)の対象にレアアース精製を含め、かつ適用期限を2028年まで延長することで、民間企業の設備投資を後押しします。
  • 戦略的保証(GPS): レアアース分野におけるバイヤーへの信用補完を手厚くするため、フランスの「戦略的プロジェクト保証(GPS)」の利用条件が緩和されます。

パートナーと主要参画企業:日仏欧の「オールスター」布陣

このプロジェクトには、資源メジャーから自動車メーカーまで、幅広い分野の企業が関与しています。

中核プレイヤー

  • Carester(ケアスター): Caremagプロジェクトを主導するリヨン発のスタートアップ。同社のフレデリック・カレンコット社長が中心となり、リサイクル技術と精製技術を統括します。
  • Solvay(ソルベイ): ベルギーの化学大手。ラ・ロシェルに歴史的拠点を持ち、ネオジムやプラセオジムなどのレアアース酸化物を年間約3,000トン生産する計画を発表しています。

連携する重要企業群

  • USA Rare Earth: 米国の企業。Caremagに隣接してレアアースの金属・合金を製造する工場を建設予定で、Caremagが生産する酸化物の重要な需要家となります。
  • LCM (Less Common Metals): 英国に拠点を置き、ラックにレアアース金属・合金の新工場を建設するために1億1,000万ユーロを投資しています。
  • Valeo(ヴァレオ): フランスの大手自動車部品サプライヤー。EUの研究開発プロジェクト「REEsilience」に参画し、リサイクル材を活用した電気モーター用磁石のサプライチェーン構築を目指しています。

フランス政府は自動車産業に対しても、France 2030の公募支援を受ける条件として「永久磁石とレアアースの供給源多様化計画の提出」を義務付ける方針であり、需要側の大手企業にも供給網の再構築を迫る構えです。

調達先はどこに?「中国外」へのシフト

肝心の原料はどこから来るのか。Caremagの最大の特徴は、その「ハイブリッド調達」にあります。

  • リサイクル源: 欧州域内の自動車メーカーや磁石メーカーから発生する使用済み製品・製造端材。これこそが「都市鉱山」であり、中国依存からの脱却の本丸です。
  • 鉱山精鉱: 現時点ですでにマレーシア、南アフリカ、カナダ、ブラジルからの調達契約が結ばれています。

さらに日本は、Caremagで生産されるジスプロシウムとテルビウム(EVモーターの耐熱性を高める重レアアース)の将来的な需要の約20%を同工場から調達する方針です。

終わりに

レスキュール経済財政副大臣は「たった一つの生産国に過度に依存することの危険性」を、マルタン産業担当大臣は「レアアースの強靭性なくして産業主権なし、エネルギー転換もなし」と述べ、今回の計画の核心を突いています。

日仏の新たなロードマップとフランス強靭化計画は、特定国への過度な依存を減らし、自由で開かれたサプライチェーンを構築するための具体的な「投資地図」です。ラックの地で2026年末に始動するこのプロジェクトが、欧州とアジアの資源安全保障の試金石となります。

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